簿記の必要性

 企業の目的は、ドラッカーによれば顧客へ「貢献すること」。

 そして永続して貢献し続けるためには、収支が少なくとも合っていることすなわち、赤字でないことや利益が出ていることが、必要条件です。

 収支が間に合っているかどうかを判断するためには、簿記の知識を伴った経理記帳が必要です。しかし、日本では簿記は、商業系しか教えられませんでした。技術系の学科では、お金の取り扱い方を学んでいません。

 中小企業では、創業の始めには、社長は製造部門や営業出身の人が多いことから経理に人材が乏しい特徴があります。  技術系の人が中心になって運営する学会や協会や同窓会や異業種交流会でも、経理が判る人が、ほとんどいないのです。

 そうした団体では、最初はお金の取り扱いは、子供の頃につけた小遣い帖の記憶のままで、現金出納帳で間に合うと思っています。ところが、実際にやってみると簡単にいかないことが出てきて決算の時に担当の人は大変困ることになります。ただし、最終的にはつじつまを合わせるので報告を聞いた人は陰の苦労は知らないで済みます。

 団体では、お金には分野別の予算があり、お金は出元と支出先の両方の管理が必要です。しかし、現金出納帳には、支出元は現金で、支出先を書くだけです。

 現実は、現金の出入り以外に、口座振込み・立替金・預かり金・買掛金(月末まとめて翌月末支払い)といった債権債務だけの発生と相殺などなど、いろいろあります。取り引き発生と支払いの間にタイムラグが発生する取り引きも、現金出納帳では取り扱えません。現金出納帳だけではいろいろな種類のお金の管理はできないのです。

   さらに、簡単に見える現金でも、財布に入れたとたんに自分のお金と公のお金とは、区別しにくくなります。

 複雑怪奇なお金をめぐる局面の整理のために、昔イタリアで発明されたのが複式簿記です。お金の問題を整理して表現できる専門家のための複式簿記は、伝票を作成し、それを各種の元帳に転記する必要がありました。ペンとインクで間違いなく、美しく、だれでも読みやすい字で、桁位置を合わせて書かなければいけないことから、几帳面な性格の経理の専門家でなければ扱えない難しいものでした。

 しかし、現代では簡単な経理ソフトが出てきて、事情は一変、だれでも簡単に複式簿記を使える時代になったのです。

 注 : 複式簿記の「複式」というのは、お金の出元を右側に、使い先を左側に分けて、 左側=右側 になるようにして記帳するところからつけられたものです。

<まとめ>
  まず、取引とは? 活動が金額で表現できる場合に取引といいます。

1.簿記では発生主義が原則
  現金の受け渡しのみ記帳するのが「現金主義」。これに対し、実際に取引がされた時点で記帳するのが「発生主義」。用品を手に入れたとき(買掛金の発生)と、支払った時、それぞれを記帳します。

2.複式伝票
  伝票は、使い先(借り方=左側)と、お金の出元(貸し方=右側)の両方を記載。一枚の伝票から、様々な資産や負債の全部の科目の相互のやり取りの過程と合計まで全てが、左側=右側になるので、間違いが起こらない仕組みになっています。

さて、どう違うのでしょうか?
 現金主義では、今年購入したものを来年支払った場合は、帳面上は今年は取引無しで、来年支払を記載します。支払をするまで、未払いの債務があることは記録に残りません。

 発生主義では、今年は購入したことにより買掛金という負債が発生し、来年は支払って債務(=負債)を解消する2つの取引を記載することになります。

 <まとめ>
  現実には、買掛・売掛・立替・相殺など現金を伴わない取引が必ず発生するのに、その記帳は現金出納帳ではできません。それに、現金を支出して手に入った資産がどうなったかも記帳できません。取引全体が記帳できる複式簿記なら記帳可能です。簿記無くては損益も出てこないのです。そして複式簿記ならいつでも決算できる状態にできます。    

経理ソフトの意味、簿記の手間は劇的に改善 お勧めソフト

 複式簿記は便利なものですが、昔は人が転記する必要があり、修正の効かないインクとペンで美しい文字で書くことになっていましたので、実務としては大変なものでした。ペンで記帳していた頃の几帳面で辛抱強さが求められる作業の特徴からか、この仕事は尊敬されると同時に、敬遠されることが多かったと思われます。

 今は、経理ソフトが転記や整理を代行してくれます。人が行なう作業は「取り引き内容を分類し、複式伝票の形式で記帳する」だけになりました。

 経理ソフトは、伝票をもとにして、科目ごとの元帳(現金出納帳もその一部)を造り、財務諸表(損益計算書・貸借対照表・試算表)にまとめてくれるので、お金の状況が簡単に見えるようになります。

 月次推移表では、科目ごとのお金の出入りが一目で解ります。これにより経営の状況が手に取るようにわかるので、異常があるとすぐに気がつくようになります。

 さらにありがたいのは財務諸表をエクセルに出せるので、決算報告書や、経営計画のシミュレーションや、資金繰り表などもちょっと加工すると作れるようになったのです。

 実務で担当した人ならばすぐに解るはずの、1円まできちんと合うはずのお金の縦横が、なぜか「合わない」ため、伝票をひっくり返し、どこが間違っているのか探し出す苦労が、経理ソフトを使うと解消します。

当組合のお勧め経理ソフト

 当組合は、数年前より「わくわく財務会計2プロフェッショナル」(Pyxis社)を利用しています。このソフトの特徴は、

@安い(同時2名使用版はネットでダウンロード販売では2万円以下、一人使用なら1万円程度)
A毎年の維持費不要
BLAN利用なら、同時に2名まで使用できる
C勘定科目と999件まで追加できる補助科目が数字で、数字がデータ分類のキーになっていることから管理しやすい。(電話番号のように数字が分類や認識キーのものは管理しやすい)
Dデータのエクスポート・インポート機能(CSV他可能)あり
 ※CとDを組み合わせると、独自の分析ができます。
E伝票や帳票が、「見やすく」「解りやすい」。
Fわくわくシリーズでは、データの互換性があるとのことで、下位バージョンも使えます。

お試し版もありますから、テストもできます。

まとめ
<お勧め> : わくわく財務会計スタンダード(一人用)
   理由 : ダウンロード販売で1万円前後、サポート料金不要、解りやすい、使いやすい

経理で大事なこと・・・先々で事故防止できる仕組みは?

 経理の英語名は、accountingですが意味は「説明すること」です。人のお金を預かって管理しているので、預けた人に対して資産がどうなっているかを説明するというのが、その心です。

 自分のお金の取り扱いを振り返ったら明らかですが、一人だけで管理していると「面倒な毎度の報告や記録は後回しでお金を使いたく」なります。忙しいと、期末までに帳面をあわせておけばいいさ!という、誘惑にかられるのは無理からぬところです。さらには近松門左衛門の「心中天網島」にあるような事態がいつ起こるとも限りません。

 そこで、先人は「お金を扱う時は必ず複数の人が関与しないと扱えない仕組み」を作ることを教えています。経理の担当者以外にも経理の内容を見ることのできる人を作るのがお勧めです。経理ソフトに入力した内容をチェックするのは簡単ですから頼みやすいです。

 安くて高機能な経理ソフトを購入し、複数の人がデータをチェックできる環境を整えることにより、実態と帳面がいつでも一致し、いつでも決算ができる状態を実現し、財政状態を知って企画運営ができるようになります。

 具体的には、経理担当と監査や運営責任者が同じ経理ソフトを使い、バックアップデータをメールでやり取りすることで実現できます。預金通帳も、ネットバンキング可能にすることで、経理用取り引き権限と監査用のチェック権限を別々にできるので、事故防止の心理的なファイアウォールができます。

 或いは、ネット上で経理できるシステム(既にいろいろ出ているようです)でも同じことができます。

 さらには、税理士や公認会計士の助言を求めることも大事です。会計で疑問が出たときや、大きなお金を動かす時は、専門家に相談することが大切です。契約している顧問税理士がいなくても、経営者の知人に依頼して、契約している顧問税理士に相談してもらうなど、いろいろな方法があります。

銀行の特徴 : 過去の実績主義の日本の金融機関

 金融機関は、運転資金や設備資金などをサポートし、お金のやり取りを仲介する経済の血液機能を持つ、大事なところです。

ところで、企業の人と金融機関の人とでは、ものごとの考え方に大きく異なる部分があります。

 企業の人は、「現在」に生きて「今後」への対策を考えています。

 金融機関の人は、「過去の正式な実績である決算書を基礎にして、最近の状況を加味しながら、融資するか引き上げるか」を考えるという特性があります。決算書は、決算月の2ヵ月後にできます。15ヶ月前から3ヶ月前までの実績の総まとめです。半年や1年も前の、もうどうにもならない過去のことがもっとも主要な判断材料になっているわけです。しかし、経済は生き物で半年もたてば好況は不況に、不況は好況に変ることはよくあることです。

 ただ、多くの企業では、決算で初めて全体の債権債務を整理して本当の姿を洗い出す作業をする習慣があるので、一概に金融機関を責められない事情もあります。透明経理で、月次決算が実態を反映している自信がある企業ならばまた話は変わるかもしれません。

  このように、金融機関の人への説明資料を作るときには、過去の正式な企業業績である「決算書」が柱になります。更に、その後の月次決算や資金繰り表も必要になります。それに加えて、今後の経営計画書が必要になります。赤字が続くと中小企業指導機関により承認された経営改善計画書が必要になるケースもあります。

  これらの資料を作成するときには、経理ソフトに入れてある数字が資料作成の強力な援軍になります。経理ソフトがなく、税理士さんの報告書だけの時は、数字は全てを手打ちで入力しなければなりません。

経理習熟の早道 : 個人資産の管理で使い方勉強できます。

 経理ソフトを覚えるには、個人の資産管理に使ってみるのが一番。何よりもいいのは、自分だけの問題なので間違えても怒られることが無いので、自由にいろいろ経理ソフトの機能を試し、探検してみることが出来ます。探険を始めると、いろいろなことが判り、できるようになるんです。そうなると楽しくなります。

 社会人になると、現金以外に銀行預金や定期預金や自動車などの資産や、人によっては持ち家や住宅融資などの借金といろいろな形の資産や負債があるものです。経理ソフトがあると、それらをまとめて見通しよく管理できます。

 記帳し始めると、知らないうちに簿記が判るようになっていることに気がつきますよ。

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