会社存続の意義と必要性

 会社は、存続しなければならない。

 会社は、従業員を雇い、顧客に貢献し、社会的な意義を持っている。バランスシートの左側の資産は、会社を存続してこそ意味があり評価額があるが、会社を存続できなければただのゴミ、廃却にも費用が発生する産廃となり、バランスは一挙に毀損する。

 廃業に伴い左側の事業用の資産はほとんどがゼロかマイナスとなるので、大幅な欠損となり、ほとんど配当の出ない破産手続きになってしまうことが多い。

 会社は破たんし、経営者も連帯保証で破たんし、全従業員とその家族は路頭に迷い、顧客は部品やサービスの調達ができず生産継続の危機となり、下請けなど調達先も連鎖倒産の危機にさらされ、銀行は貸付金が回収できなくなる。

 この悲劇を防ぐためには、「会社は存続しなければならない」。

 この問題については、高畑省一郎著「会社存続の原理」が参考になる。    

資金繰り

 会社は、決済の現金がある限り存続できる。黒字でも赤字でも、資金があれば存続できるが、資金がなくなれば黒字でも倒産する。

 会社の事業は、一つ一つの取引の積み重ね。取引は発生主義で簿記に記帳され、取引先ごとに整理されて、P/LやB/Sにまとめられ、期日になると決済される。決済の支払は通常は現金・預金・小切手か約束手形が使われる。支払いを先延ばしにする信用機能をもつ約束手形を発行すると、手形交換所の規則に従って手形の期日に支払わなければならない。

 会社の場合、決済のお金の口座である銀行の当座預金残高が必要な金額より1円でも不足すると不渡りとなり信用を失い、6か月以内に2回発生すると銀行取引停止処分を受け、事実上倒産する。

 このため、当座預金の残高が決済金額に不足しない管理が、会社存続のカギとなる。決済に使われる当座預金になれるのは、現金だけ。製品や半製品などの在庫や、土地や株式や建物などの現金以外の資産がどれだけあっても、現金にならなければ決済の役には立たない。

 会社の存続のために、決済用資金である現金の管理を行うことが、資金繰りです。

 資産の一つである現金だけに着目して、その出入りを管理するところに特徴がある。P/Lと同じ用語が使われることがあるが、資金繰りの用語とは意味が異なるので注意が必要です。  

先行管理

 資金が尽きると会社は破たんしてしまうので、資金繰りでは、資金が尽きないように将来を予測し先行して計画し、必要な運転資金が必要なタイミングで手当てできるように金融機関のリードタイムを織り込んだ管理を行うことが大切。会社は、過去の分析より今後の予測と対応により多くの時間と経営資源を投じることが望まれます。

 通常の簿記の管理は、過去の取引実績の記録が中心で、多くの会社は前月実績の分析や報告に多くの時間を割く傾向があります。すでに起こってしまったことの調査分析は、前向きな対策立案に役立てばよいのですが、ともすると責任回避の言い訳づくりに終始することが多くなるということです。

 会社には、良い時と悪い時がある。
 良い時には、売り上げが増え、現金残高も増加し、経営面での心配が少ないので、良い時が続くと経営は気が緩み、危機を忘れがちになります。しかし、経済の循環の中で必ず悪い時がやってくる。競争が増え売値が下がり、在庫が積みあがり、製品が市場に合わなくなり、利益が出なくなり、赤字が増加する。

 放置していると、決済資金不足して倒産する。会社存続のためには、経営を改善し、会社が黒字になるように対策を講じなければならない。
 改善目標となる金額を明確にし、どんな手を、どの程度、いつ、行わなければならないかを判断するのに、資金繰り計画が必要です。会社が倒産するのは、赤字ではなく資金繰りが行き詰った時ですから、資金が続くようにすることが判断の指標となるのです。

 損益(P/L)で経営を判断していると、売り上げが下がった時に、現金流出に気が付かない恐れがある。特に手形を利用していると、売上が増え、仕事が忙しく仕入れ額が大きかった時の支払いを、売り上げが下がった時の回収では払えなくなる。大きな資金流出が発生し、十分にあったはずの資金が数か月で無くなることがある。

 貸借対照表(B/S)を併用してみることが大切です。資金繰りの前段ですね。流動資産と流動負債の動きと相互のバランスを見ることが第一歩です。流動資産では受取手形が大切で、企業では受取手形を割り引くことで資金調達をすることが多いのですが、この場合は受取手形を銀行に預けて短期資金を借り入れる形になるので、流動負債とのバランスを見る必要があります。B/Sで受取手形があると安心していたら既に割引に使ってしまっているかもしれません。

 決済資金原資の当座資産残高と、流動負債合計のチェックが有効です。

 時代の変化が急になり、予想外のことが次々に起こる現代では、そのリスクは大きい。リーマンショックでは、数か月で5割を超えるような売り上げ減少が起こったが、最近の液晶の業界などを見ていると、いろいろな事情でこのような変化が起こることが予想される。特に在庫調整過程では、発注が中断される事態が起こることは多い。この面からは、投資と同じで顧客や需要業界の分散を図ることは重要です。

  現在から先のことを考えなければならないので、先行管理が大切です。資金繰りでは、現在から半年先までは常にチェックしておくことが必要。良い時と悪い時の2つのケースを想定し、シミュレーションしておくことが大切。

 資金繰りの具体的な方法は、ネットで調べたり、取引銀行の所定様式を利用できる。エクセルを利用すると簡単予測シミュレーションできる。宮崎銀行ではHPで、エクセルの資金繰り様式を公開しています。

 二人以上の経営チームを作り、話し合いながら将来の経営条件を設定し、シミュレーションし、結果を見ながら議論することで知恵が出てくる。なぜ二人以上かというと、一人だけでやっていると必ず思い込みが発生したり、面倒になってくるといった問題が出てくるため。経営チームの人は、異業種交流会・顧客・同業・調達先・銀行・外国など、社外に出てみることが大切。視野を広め、自社以外の現実を見聞きすることが役に立ちます。

 資金繰りとP/Lとで、似たような言葉がありますが、意味が異なります。同じ経常収支という言葉でも、資金繰りの経常収支では「本業に関係する現金だけの差引合計」を意味しますが、P/Lの経常収支では「本業の取引の債権債務の総まとめ」を意味しているという具合です。  

銀行を味方に

 銀行は、預金者からお金を預かって、安全な運用先に貸し付けて金利を稼ぎ、元金を回収するのが仕事です。元金まで焦げ付いたら大変です。リスクを減らすように考える責任があります。

 借りる方は、お金がショートしそうになると金策で走り回るようになり、銀行に貸してくれと泣きつきたくなりますが、銀行から見れば危なくなった融資先となってしまいます。

 危なくなるずっと前から、計画的に事業改善策を練り、実行し、銀行から見ても大丈夫だと思われるような経営をしていることが、銀行とのお付き合いの秘訣です。

 どんな事業をしているのか、どのように経営をしているのか、事業の見通しはどうなるのか、過去の実績はどうだったのか(最低3年間)、現状数か月の毎日の資金繰り、先2年の月ごとの資金繰りはどうなるのか、会社の強みや弱みは何か、などを支店の担当や支店長に、言葉と数字で資料化し説明できるかどうかが大切です。そのような内容は、日常の仕事そのものが反映することになるので、日ごろの仕事を説明できるものにすることが重要です。日ごろしていない事は、いざとなった時にできません。

 ITを毎日の仕事の中に生かしている会社では、受注や出荷や生産状況や、社内の管理データなどがデータベースとして蓄積されているために、経営データ分析も簡単で、金融機関に説明する資料も作成しやすくなります。

 経営に必要な金額が大きくなると、支店長決済では対応困難になり、本店の融資部やさらに上部の判断が必要になります。銀行では一般に、融資先が本部へは直接説明できないことになっています。このため、支店が融資の審査部門に対して説明しやすくなる資料を準備できるかどうかがポイントになります。

 県の中小企業支援団体などが制度的に行っている、経営改善計画作成支援事業は、こうした説明資料を客観的に承認できるレベルにするための方策ともいえるわけです。

まとめ

 会社存続のためには、「手形発行をやめること」が有効。売り上げ減少した時に、手形は返済条件変更交渉の効かない、超短期借入の信用の特徴のために、会社を倒産させる。

 会社経営には、先行管理を行うこと。過去の分析は必要最小限にして、これから先を見てやらなければならないことを考えることが大切。

 償却前利益(=営業キャッシュフローの黒字)維持は必達。

 売り上げが増えたからと言って、設備と人の数を増やすな。増えた売上は景気循環で必ず減る。増やした人と設備投資は費用の増加と現金の減少や返済増加になり、売り上げが減った時に企業を苦しめる。売り上げ増は、生産性を2倍に上げる改善で達成するようにコストダウンにまい進すること。設備投資と人の増加には、慎重のうえにも慎重を期すことが大切。
 売上比例で人と設備と面積を増やす考え方では、企業の未来はないと考えよ。むしろ、同じ人と設備と面積で生産を倍にすること、すなわち生産性倍増で売上倍増ができる方法を計画することが大切。そうでなければ世界との競争に勝ち続けることはできない。

 銀行とのお付き合いには、会社の特徴・強み弱み・経営計画などのプレゼンと、資金繰りなどの詳細資料の2本立てが大切。支店が融資部に説明できる資料を作成しよう。

 経営にはチームで当たる仕組みを作ろう。重要なアイデアは、対話している中から産まれることが多い。経歴や経験や立場の異なる人から出てくる、いろいろな視点からの提案や提言が、会社を袋小路から救ってくれる。

 経営改善計画の作成では、県の中小企業支援組織にコンサルタントを派遣する仕組みもあり、信頼できる外部のコンサルタントを起用することは、時間を節約するためには有効です。ただ、黒い紳士を間違えて起用しないことが大切です。

蛇足1 経営改善計画作成支援コンサルタント

 県の中小企業支援組織(財団等)では、中小企業診断士などのコンサルタントを無料で派遣する事業なども行っていることがあるので、相談しましょう。税理士さんなども支援してくれることがあります。

 プロのコンサルタントが行う内容は、事業の将来性などを検討するために企業の実態評価のためにDD(事業評価:デューデリジェンス)や、資産・負債・資金繰り分析・人員分析・社内外からの評価分析や、経営内容(企業運営)等を調査する部分があります。詳細内容については、専門的な事業分析能力のある人や、税理士・公認会計士・弁護士などの支援が必要になる場合もあります。そうしたチームは、東京などに存在することが多く、プロのチームを起用すると短期間で説得力のある診断書を書いてくれますが、ある会社更生法申請企業に関係したことのある人に聞いた話では、費用は1500−2000万円程度が普通とのことです。プロがチームで作業するために高額になってしまうのだと。ただ、調査して報告書を書いてくれるだけで、結果に責任を持ってくれるわけではありません。

 プロのコンサルタントを起用しなければならない状況が発生するケースとしては、資金繰りが行き詰っているのに気が付かずぎりぎりになって金融機関に駆け込み金融機関側から経営関係資料を早急に求められる場合、金融機関が中立的な機関の調査結果を監査的に利用するなどお墨付きとしての機能を求める場合、社内の資料作成能力が不足していて金融機関を納得させられる資料作成が困難な場合、上場などで公式な資料作成が必要になる場合など、が考えられます。

 銀行に提出する経営資料に必要な部分として、初めて見る人への企業のプレゼン的な部分と、詳細資料的な部分があります。内外不一致を避けるために、日ごろから企業内部の経営管理で作成しておく習慣があれば、判断も早くできるし、金融機関も協力しやすくなります。

 会社を透明かつ公明正大に運営し、先行管理で資金繰りや事業計画を立て、県の制度などを利用し早目に必要資料を社内で作成し、時間的に余裕をもって金融機関との協議ができる会社では、外部のコンサルタントを起用する必要がなく、大きなコスト削減につながっているわけです。

蛇足2 黒い紳士に気を付けよう

 向こうから近寄ってくるよく知らないコンサルタントは、その大半が危険だと考えましょう。その人の長い経歴を知っているか?、その人が言うことではなく行ってきたことを知っているか?、関係する人々を知っているか?、その人の周りの人は幸せそうで誠実で信頼感のある人々か?、などは危険な人を見分けるのには役に立ちます。
 過去の新聞をにぎわした大型の詐欺事件では、同じ人やそのチームが繰り返し、時と場面を変えて何度も登場していることに驚きます。